こんな夢を見た
夜。足早に駅に向かっていたら、いきなり小悪魔に引き止められた。 「世迷言を授けましょう」 「いらない。急いでるから」 「そう言わずに。損はさせません」 「ほんとに?損しない?」 「はい。なんなら、あなたの今の望みを叶えてあげます」 「なら20分前…
花は自由だ。儚いながらも、伸び伸びしている。いつもの時間、同じように仕入れてきた花を仕分け手籠に収める。店先に並べて看板を店前に置いた時。ふと視線を感じた。顔を上げると、向かい側の歩道に子どもが立っていた。こんな朝早くに珍しい。近所の子か…
いい天気。こんな朝は、散歩するに限る。急いで起きて着替えてから外へ出た。心地良い空気。春の匂い。「…あれ」こんな素敵な家、あったっけ。今まで、こっち方面はあまり来てなかったけど。聞いたことないな…。気になって近づくと、庭に水を撒く音がした。…
目が覚めたら、もう隣りにいなかった。 代わりに、一通の手紙。寝ころんだまま、そっと開く。 『お別れを言います。今まで一緒にいてくれて、ありがとう。 あなたに出逢えて、とても幸せでした。とても楽しかった。 あなたが手を差し伸べてくれたから、今ま…
森へ飛ばされた。ただでさえ花粉で辛いのに。 えーと、いま午後3時だから。太陽があの位置ということは…。 「よろしければ、道案内しましょうか?」 頭上から声がした。見上げると、ちんまりとしたリスがいた。 「道を知ってるの?」 「はい。少し険しいです…
明け方。砂浜を散歩していたら、人魚を見つけた。 「どうしたの」 「波に身を任せていたら、打ち上げられてしまいました」 「そう。海に戻らないの?」 「もう飽きました。あなたの家に連れてってくれませんか」 「いいけど…お風呂狭いよ」 「構いません。行…
三年目の春を迎えた。 晴れて良かった。今年は鮮やかに咲く桜を眺めてお喋り出来る。 小高い丘の上にある、一本の桜。あの人の桜。 「お久しぶりです。逢いに来ました」 地面に小さいシートを敷いて座る。ぽかぽか陽気だ。 「コーヒーを持ってきました。匂い…
「ぷぎゃっ⁉」 「あ、ごめん」 恐竜の赤ちゃんを踏んでしまった。慌てて抱き上げる。 「痛かったね、ごめん。お母さんは?迷子になったの?」 「ぷぎぃ…」 「そっか。どうしよ…交番に連れてったほうがいいかな」 恐竜の迷子届けって受け付けてくれるんだっけ…
起きたくない。だって寒いし眠い。 そうだ。飲んじゃえ。 ごくん。朝を飲み込んだ。 これで午前中、私はどこにも存在しない。 午後からは頑張らないと… トン、トントントン。 誰かが階段を上がってきて、勢いよく部屋のドアを開けた。 「あら…変ねぇ。この部…
「こんばんは」 「こんばん、は…?」 バス停から家までの帰り道。 いつもはすれ違わない人だなぁと思って何気なく頭を見たらツノが生えていた。 「鬼ですか」 「鬼だよ。あんたの中の」 驚いた。鬼はとっくに追い出したと思ってたから。 「どうして、また?…
「背骨が好きよ」 冷たい指先が肌をすべる。 「くすぐったい」 「早く食べたいわ、あなたの骨」 そっか。私この人に食べられるために、ここへ連れてこられたんだっけ。 「美味しくないと思うけど」 「そんなことない。触ったら分かるもの、極上の骨だって」 …
目が覚めたら、眼球の奥にエレベーターが設置されていた。 ああ…今日はのんびりしようと思ってたのに。 しばらくしてから、ゴマ粒ほどの制服姿の女子高生が枕を這い上がってきた。 「すいません、学校までいいですか」 「何階?」 「35階です」 「分かった。…
「お帰りなさい」 残業を終えて家に帰ると、知らない女がいた。 「誰」 「この部屋の住人よ」 「嘘言わないで。ここは私の部屋よ」 「違うわ、ワタシよ」 「なんなの、勝手に上がりこんで。警察呼ぶわよ」 「どうぞ、お好きに」 変だ。どうしてそんなに堂々…
午前二時。部屋の窓を叩く音がして目が覚めた。 二階のこの部屋の窓を…ということは。 カーテンを開けると、知らない男の人が泣きそうな顔で頭を下げた。 「どうしました?」 「夜分に申し訳ありません。こちらへ伺えばいいと聞いたものですから」 「ええま…
アパートの前でケモノを拾った。 このへんでは見ないタイプだったから、そのまま連れて帰った。 深めの皿にタオルを敷いて、その上に乗せる。 「…ぴ、ぴぴっ」 「お前、どこから来たの」 「ぴぴ、ぴっ!」 「まだ小さいもんね、喋るのは無理か…なんか食べる…
私が欲しいのは、あなたじゃなくて。 愛された皮膚の記憶。 熱い舌が触れた記憶。 いつかは朽ちて消えゆく身体だから。 記憶だけは残しておきたいの。 「それは思い出として?」 ええ。あなたが私と一緒にいてくれたという、大切な時間の積み重ね。 「確かに…
目の前に大きな扉が現れた。ああ、とうとう私の番だ。嬉しい。 「開けてもいいし開けなくてもいい。選べ」 「開けたら、どうなるの」 「それは自分の目で確かめろ」 「開けなかったら?」 「それも自分の目で確かめろ」 「・・・あなたは誰」 「お前の守護神…
買い物に行こうと外へ出たら、地面から空に向かって雨が昇っていた。 あれ。今月って逆転月だっけ。どうしよう、傘しかないし。行くの止めようか。 「ねー。買い物行くのー?」 「え?」 上から声がした。見上げると、大きな絨毯が浮かんでいた。ゆっくりス…
身体が伸びる。真っ白な冷たいシーツの上で、アナタの声を聴く。 「これ以上伸びたら消えちゃう」 「消えたらいい」 「そしたら、もうアナタに触れられないわ」 「触れなくていい」 冷たいひと。一度も私を見ない。 ここにいない誰かを思い浮かべて、その目…
死神が現れた。 「よう、相棒」 「あんたの相棒になった覚えはない」 「そう言うな。お前との付き合いは長いからな。他人とは思えないのさ」 軽やかなステップを踏みながら隣りを歩く。 「そろそろ行かないか、次の世界へ」 「やだね。あんたと行くところな…
カレンダーから水曜日が消えていた。あの人が来てくれないのも、そのせいだ。 すぐに市役所の水曜日担当の人に電話した。 「私の水曜日が行方不明なんです」 「えーと。三丁目の方ですよね、えー・・・あ、おたくの町内の自治会長さんが食べましたね」 「え…
ああ、まただ。また黒い塊が部屋に転がっている。 「昨日も捨てたのに」 溜息を吐きながらゴミ袋に詰め込んだ。 ずるずる。ズルズル。引きずりながら、沼を目指す。 いつからだろう、この塊が現れるようになったのは。 一時間近くかかって、やっと辿り着いた…
影が言う。 「おい。俺は自由に動きたいんだよ、ついてくるな」 「そんなこと言われても。あんたは俺の影なんだから仕方ないだろ」 「ふん。誰が好き好んでお前なんか」 「なら離れればいい。俺は一向に困らない」 歩き出す。また文句を言う。 「勝手に歩く…
ふと気づくと、知らない場所にいた。廃墟みたいだ。縦長の窓から夕方の光が射し込む。 「その窓は開かないよ」 後ろから声がした。知らない男の子が立っている。 「ここはどこ?」 「知らずに来たの?ここは僕の家だったところ」 そう言って手を広げてくるっ…
深い穴を掘っている。何のためなのか分からない。 でも私は穴を掘る。汗だくになって掘り続ける。 2mくらいの深さになった頃。上から声がした。 「お弁当、買うてきたよ」 見上げると、ずいぶん長い間会ってない幼馴染みが微笑んでいた。 珍しいなと思いなが…