全部、嘘。

妄想と日常と噓

よろしくマーメイド

明け方。砂浜を散歩していたら、人魚を見つけた。

「どうしたの」

「波に身を任せていたら、打ち上げられてしまいました」

「そう。海に戻らないの?」

「もう飽きました。あなたの家に連れてってくれませんか」

「いいけど…お風呂狭いよ」

「構いません。行きたいです」

「んー…分かった。じゃあ、このバッグに入って」

「失礼します。あ、その前に」

「なに」

「ご存じですよね。私たち人魚を家に入れたら」

「知ってるよ。いいの、覚悟は出来てないけど。いいの」

「そうですか。では、遠慮なく」

するん、とバッグの中に入って顔だけ出してにっこり笑った。

ああ、綺麗な子で良かった。私は来世で、きっと美しくなる。

「あなたのお住まいのところ、水漏れは大丈夫ですか」

「うん、多分。心配なら、すぐでもいいよ」

「奇特な方。素敵だわ」

「ありがと」

 

五分後。

浴槽に一緒に沈んだ私たちは。すぐにひとつになった。

人魚の身体の中は、とてもなめらかで心地良い。

「気分はどうですか」

「すごくいい。幸せ」

「良かったです。徐々に溶けますから」

「うん」

ずっと。人魚に食べられるのが夢だった。

もう私は何もしなくていい。もう誰のことも気にしないで済む。

さよなら。すべて、さようなら。

 

溶ける。