ブルーフォレスト
森へ飛ばされた。ただでさえ花粉で辛いのに。
えーと、いま午後3時だから。太陽があの位置ということは…。
「よろしければ、道案内しましょうか?」
頭上から声がした。見上げると、ちんまりとしたリスがいた。
「道を知ってるの?」
「はい。少し険しいですが。近道です」
「そう…じゃあ、お願いしようかな」
「では参りましょう。ついてきて下さい」
スタタッと下りて来て、私の前を歩き出す。
「もしかして、私と同じように飛ばされてくる人って多いのかな」
「そうですね。でも大半は入口あたりですけど」
「ふぅん。ここまで深くって珍しいんだ」
「はい。あ、ほら。県道が見えてきましたよ」
見覚えのある風景。良かった。確か、すぐそこにバス停があるはず。
「助かったわ、ありがとう」
「どういたしまして」
「何もお礼するものがないの。ごめんね」
「いえいえ、お気になさらず。それより」
「なあに」
「早く現実を認めて下さい。いつまでも隠しておけるものではありませんよ。では」
しゅたた…ものすごいスピードで森の中へ消えた。
そうね。あなたの言う通りかもしれない。私は夢を見続けていたいけど。
タクシーが向かってくるのが見えた。手を上げて止める。
「すみません、一番近い交番までお願いします」
「何かありましたか」
「ええ、ちょっと」
飛ばされて良かった。でなければ、ずっと。
あの人は仄暗い場所で一人ぼっちで。だから出してあげる。
1年ぶりに逢いましょう。