さあ、飛べ
目の前に大きな扉が現れた。ああ、とうとう私の番だ。嬉しい。
「開けてもいいし開けなくてもいい。選べ」
「開けたら、どうなるの」
「それは自分の目で確かめろ」
「開けなかったら?」
「それも自分の目で確かめろ」
「・・・あなたは誰」
「お前の守護神さ」
嘘ばっかり。どうしてそんな見え透いたこと言うんだろ。
「うんざりしてるんだろ、現状に。なら自分から動け」
「言われなくても」
思い切って扉を押した。明るい光に覆われる。ほら、やっぱり。開けて良かった。
うきうきしながら、一歩踏み出す。と、後ろから大きな笑い声。
「私は間違ってないわ」
「だからお前は駄目なんだよ。下を見てみな」
「え」
眼下に広がっているのは、私の生まれた町。出たくてたまらない、なんにもない町。
「・・・なんで」
「残念だったな。今までと同じように生きていけ」
ひゅるるるん。一瞬で地面へ落とされた。今度こそ、大きく変わると信じてたのに。
「あ、お帰り。どこ行ってたの、もうすくご飯よ」
「・・・うん」
着替えようと思って部屋へ入った。何気なく鏡の前に立って、言葉を失う。
「お母さん、今って何年?」
「突然何よ。2000年になったばかりでしょ。ほら、はやく座って」
そんな。ひどい。また子どもから生きなおすの。ひどい。
遠くから、乾いた声が聞こえた。
「残念だったな。お前にはその世界がお似合いさ」
そう。そうかもね。しょせん私は・・・。
「今夜はハンバーグにしたのよ。好きでしょ?」
「うん。いただきます」
そう、私は。
この家からも出られずに。
終わる。