全部、嘘。

妄想と日常と噓

細胞下の偏愛

私が欲しいのは、あなたじゃなくて。

愛された皮膚の記憶。

熱い舌が触れた記憶。

いつかは朽ちて消えゆく身体だから。

記憶だけは残しておきたいの。

「それは思い出として?」

ええ。あなたが私と一緒にいてくれたという、大切な時間の積み重ね。

「確かに、一緒にいたね。呆れるほど傍にいた」

そうよ。私達は永遠を毎日のように誓い合った。

あなた以外の人は愛さないと、何度も囁いたのに。

あなたは。

「だって。君は最初から違ったんだから。仕方ないよ」

ねえ。どこへ行くの。私の身体を、どこへ。

「さあ。君はこれから新しく生まれ変わるんだ」

身体が宙に浮く。窓から見える青空がきれい。

・・・グシャッ。

「次は、もっと穏やかな性格で生まれておいで」

あなたの声が遠くなる。

教えて。私の皮膚を愛してた?私の冷たい身体を。

ああ。

嗚呼、そうか。

やっと思い出した、私は。

「あれ。もう廃棄ですか、その子。購入されたばかりでしょう?」

「ええ。でもちょっと性格がキツくてね・・・今ならまだ保証期間だし」

「そうですか。あ、では今から店へいらっしゃいますか?新しい子が入りましたよ」

「そうですか。なら会おうかな」

あなた。私を一目で気に入って買ってくれたのに。

さよならなのね。また逢えたら嬉しいけど。

さよなら、なのね。

 

愛された皮膚。

さようなら。

 

「さぁ。ようこそ、機械人形専門店へ」