全部、嘘。

妄想と日常と噓

独りぼっちの協奏曲

目が覚めたら、もう隣りにいなかった。

代わりに、一通の手紙。寝ころんだまま、そっと開く。

『お別れを言います。今まで一緒にいてくれて、ありがとう。

あなたに出逢えて、とても幸せでした。とても楽しかった。

あなたが手を差し伸べてくれたから、今までラクに呼吸できました。

たくさんのことを、あなたはしてくれました。いろんな場所に連れていってくれました。

春には、桜の花びらが舞う中、二人で踊りましたね。

夏は海へ行って、ひたすら波打ち際を歩きました。

秋。枯葉を踏みしめながら、少し冷たい風を受けながら。手を繋いでくれました。

そして、冬。寒さに震える私を、優しく抱きしめてくれた。

あなた。ありがとう。幸せでした。今も幸せです。とても。

離れるのは寂しいけれど。ほんの少しです。またすぐに逢えますものね。

好きになってくれて嬉しいです。あなたが大好きです。いつまでも、大好きです。

ほんの少しだけ。先に行って待ってます。

あなた。大好きな、あなた。また逢いましょう。いつかまた。』

ああ、そうか。君はもう隣りにいてくれないのか。

こんこん。コンコン。

「はい」

「あ、やっぱりまだ寝てたんだ。もぉ~お母さんの法事だっていうのに呑気なんだから」

早く支度してよーと、ぷりぷりしながら娘が部屋を出て行った。

ゆっくり起き上がってカーテンを開ける。いい天気だ。空も澄み渡っていて美しい青。

「…君が好きだった色だな」

着替えてから、手紙を胸ポケットに入れた。もうそろそろ、逢える。

早く君に逢いたい。

その時は思い切り抱きしめるから。

また笑顔で、新しく始めよう。

 

あなたが好きだ。