全部、嘘。

妄想と日常と噓

自由をちょうだい

「お帰りなさい」

残業を終えて家に帰ると、知らない女がいた。

「誰」

「この部屋の住人よ」

「嘘言わないで。ここは私の部屋よ」

「違うわ、ワタシよ」

「なんなの、勝手に上がりこんで。警察呼ぶわよ」

「どうぞ、お好きに」

変だ。どうしてそんなに堂々としてられるんだろう。

「それにしても。あなたって鈍感ねぇ」

「どういう意味」

「長年この部屋にいるけど、あなたみたいに、ふふ」

「何がおかしいの」

「だって。ワタシはずっと、あそこにいたのに」

女が笑顔で押し入れの天袋を指さす。心臓がドクンと跳ねた。

まさか、そんな。

「もしかして…冷蔵庫のもの」

「ええ。食べてたわ。ほかにも何時の間にか減ってたりしたでしょ?」

「…トイレットペーパー」

「そうね。あなたはいつも首を傾げてた。でも曖昧にしてたのよね」

「そうだけど…でもそれは、」

「分かってる。気づいてなかったんだもの、仕方ないわ」

ふふ、ふふふっ。楽しくてたまらないというような笑い声。

「あ、ほら。足音が近づいてきた、ご帰還よ」

女は立ち上がって、素早く天袋へ隠れた。

私も慌てて靴を持って、自分の部屋へ身をひそめる。

「あれ?やだ、また電気つけっぱなしにして出かけちゃったんだ」

美人で仕事も出来て活発なひと。

そんな彼女に憧れて。少しでも一緒にいたくて。

私は天井に巣を作った。

ああ、今日も素敵。あの黒髪に触れてみたい。

でも。まさか私以外にもいたなんて。

早く追い出さなきゃ、あの女。私が彼女を護らなきゃ。それと。

「あ、ゆうくん?今から?うん、いいよ、うん…待ってるね」

あの男もだ。彼女を抱くためだけに来る。

あいつも、早く消さなきゃいけないな…。

 

私のもの。この部屋も、彼女も。

全部、私のもの。

 

消してやる。