全部、嘘。

妄想と日常と噓

Free

花は自由だ。儚いながらも、伸び伸びしている。
いつもの時間、同じように仕入れてきた花を仕分け手籠に収める。
店先に並べて看板を店前に置いた時。ふと視線を感じた。
顔を上げると、向かい側の歩道に子どもが立っていた。こんな朝早くに珍しい。近所の子かな。
少し迷ったけど、手招きしたらトコトコと寄ってきた。男の、子?
「おはよう。一人なの?」
「はい」
「そう。えっと、この近所?」
「あの…これで買えますか、お花」
小さな手を、ぐいっと前に出す。手の平に百円玉が三枚…ん?これ百円か?なんか違うような。
「花が欲しいの?」
「うん。お姉ちゃんの誕生日」
「そっか。プレゼントか、優しいね。ちょっと待ってて」
仕入れてきた中から、小ぶりの花を中心に選んでブーケを作る。リボンはレースでシンプルに。
あの子のお姉さんなら、まだ十代だろうし…うん、こういう可愛らしい感じでいいか。
「お待たせ、これでいいかな?」
目の前に差し出すと、にっこり笑った。可愛い。
「あの、でも…お金が」
「いいよ気にしなくて。プレゼントなんだからさ」
「ありがとう…ほんとに、ありがと」
「うん。良かったら今度はお姉さんと一緒においで」
「…ありが、と」
ぺこっと頭を下げてから横断歩道を渡り、立ち止まってまた頭を下げた。
その背中が見えなくなるまで見送ってから店内へ戻る。そうだ、さっきの300円…。
「あれ?何だこれ」
確かに硬貨を受け取ったはずなのに。テーブルの上には、茶色く変色して数か所が破れた紙幣。
持ち上げようとしたら、砂のように細かい粒子になって、跡形もなく消えてしまった。
しばらく、呆然としたまま立ち尽くす。
もしかして、あの子…。
「化かされたの、かな」
だよな、だって。影がなかったもん。こんなにいい天気なのにさ。
「あーあ…やられた」
まだまだ甘いなぁ、自分も。もっと疑わないと。
「しゃーない。切りかえよ」
あのブーケどうするんだろう。ちゃんと大切な人に渡してくれたらいいけど。
花は何処へ行こうと自由だ。誰にも占有する権利はない。

いいよ、またおいで。

今度は、好きな人も一緒にね。