じゃあ、また
三年目の春を迎えた。
晴れて良かった。今年は鮮やかに咲く桜を眺めてお喋り出来る。
小高い丘の上にある、一本の桜。あの人の桜。
「お久しぶりです。逢いに来ました」
地面に小さいシートを敷いて座る。ぽかぽか陽気だ。
「コーヒーを持ってきました。匂いだけでも」
ずっと使っていたカップにコーヒーを注いで、枝に近づけた。
「そっちはどうですか。楽しい?」
枝が柔らかく揺れる。そう、楽しいのね。なら良かった。
「こっちは色々と大変です。いつの世も、たくさん大変です」
眼下に広がる町。あなたと私が生まれ育った町。
「あなたが去ってから、私はしばらく落ち込みました。でも元気になりました」
だって、この桜を見つけたから。あなたは、ここにいる。
「ねえ。私も、いずれ。そっちへ行きたいです」
さわ…さわさわさわ…花びらが風に舞う。
「分かってます。私はまだ、ここで。生きていきます。心配しないで」
カップを見ると、カラになっていた。飲んでくれたんだ。
「じゃあ…行きます。また来年の春まで。さよなら」
シートを畳んでから、そっと幹に触れてみた。温かい。生きてる。
来た道を、ゆっくり引き返す。空が青い。
しばらく歩いてから立ち止まって振り返ると。
桜の横に、あなたがいた。
あの日と同じ、真っ白な服を着た笑顔のあなたが。
手を振ると、小さく振り返してくれた。
ありがとう。大好きなあなた。ありがとう。
来年も、また。さわやかな笑顔を見せてください。
あなた。
大丈夫よ。
私はまだ、捕まらないわ。