ようこそパラダイスへ
ああ、まただ。また黒い塊が部屋に転がっている。
「昨日も捨てたのに」
溜息を吐きながらゴミ袋に詰め込んだ。
ずるずる。ズルズル。引きずりながら、沼を目指す。
いつからだろう、この塊が現れるようになったのは。
一時間近くかかって、やっと辿り着いた。体中が汗だらけで気持ち悪い。
「おう、おいでなすった。毎晩ご苦労なこって」
沼の番人がタバコを吸いながらククッと笑う。
「いつまで続くんだろ、これ」
「お前が自分から気づこうとしない限り、無理ってこったな」
「何を。何に気づけって言うの」
「その中身さ。お前には、ただの真っ黒な塊にしか見えてねえんだろ」
「だってそうじゃない。すっごく重いし、でもなんか柔らかいとこもあって・・・なんなの一体」
「お前が望んだものさ」
「え?」
私が望んだもの。私の願い。それは、たったひとつだけ。
「まさか」
震える指で、固く結んでいた袋を開ける。広げて、目に飛び込んできたのは。
「ようこそ、パラダイスへ」
一瞬で私は入れ替わった。袋の中の、得体の知れない塊だと思い込んでいたもの。
「良かったな。真実を手繰り寄せられて」
万人が呟いた。ああそう、これが本当のことなんだ。
少しだけ開いた袋の口から見えたのは。私。
そうか。そうだったんだ。どうして今まで、こんな簡単なことに気づかないままでいたんだろう。
ずるずる、ズルズル。ぼちゃん。ああ、沈む。
私は私に捨てられて。
私は自分を捨てるんだ。