デビルズ・フード
死神が現れた。
「よう、相棒」
「あんたの相棒になった覚えはない」
「そう言うな。お前との付き合いは長いからな。他人とは思えないのさ」
軽やかなステップを踏みながら隣りを歩く。
「そろそろ行かないか、次の世界へ」
「やだね。あんたと行くところなんて、ろくでもない世界に決まってる」
「そんなことはない。住めば都って言うだろ。それに、あとがつかえてるんだ」
「なら先に違う人を連れてけよ」
「そりゃ無理な話だな。生まれた時から順番が決まってんだ。番号順に連れて行かないと俺が罰を食らっちまう」
「ふん。結局、自分のためか」
しょせん死神なんてそんなもんだ。本当に恐いのは、こいつらじゃない。
「そういや三日前だったかな。天使が来たよ」
「なんだと・・・おい、まさかお前、」
「ああ。サインした」
「・・・ちくしょうっ!あいつらと契約したら二度と転生出来ないんだぞっ?」
「知ってる。だからサインしたんだ」
「お前・・・絶対に俺が地獄へ叩き落としてやる」
「天使に勝てたらな」
「無味無臭の世界で、永遠を選んだことを悔やめばいい!」
捨て台詞を吐いて、するんっと消えた。あいつ、これからボコボコにされるんだろうな。
空を見上げる。優しい光と共に天使が舞い降りてきた。
「そろそろ時間です」
「分かってる」
「後悔は?」
「あるよ。後悔ばかりだ」
「それでこそ、天国で生きるに相応しい。ずっとずっと苦しみなさい、自分がもうどこにも行けないことを。さぁ、手を握って」
白く柔らかい手に包まれて引き上げられる。
さよなら。ほんの少しだったけど。この星で過ごせたのを誇りに思うよ。
もう君には逢えないけど。もう誰とも逢わないけど。
君と一緒にいたことは忘れない。忘れないから。
死神。
さよなら。
あんたと話す時、実はちょっとだけ。
嬉しかったって伝えれば良かったなぁ。
さよなら。
しにがみ。