全部、嘘。

妄想と日常と噓

私の獣

アパートの前でケモノを拾った。

このへんでは見ないタイプだったから、そのまま連れて帰った。

深めの皿にタオルを敷いて、その上に乗せる。

「…ぴ、ぴぴっ」

「お前、どこから来たの」

「ぴぴ、ぴっ!」

「まだ小さいもんね、喋るのは無理か…なんか食べる?」

確か、まだ食パンが残ってたはず。トーストにしてあげよう。

「ぴ、ぴっ」

「はいはい、ちょっと待ってね」

なんか母親になった気分。楽しいな。

「はい、出来たよー。飲み物は…水でいいか」

トーストを小さく切ってテーブルに置くと、すぐ噛り付いた。お腹減ってたんだね。

「ねえ。お前どれくらい大きくなる?このアパートってペット禁止だから。

あんまり大きく、…って、もう食べちゃった」

まだ物足りない感じだけど、与えすぎてもな…。

「とりあえず名前…ぴっぴでいいか。ぴっぴ」

「ぴっ」

「ふふ、可愛い。今日はもう寝ようね。明日の朝は、もっと美味しいもの作ってあげる」

「ぴ」

毛並みもいいし目も大きくて輝いてる。頭も良さそう。これはいい拾い物かも。

朝。味噌汁とご飯、卵焼きを大量に作った。

「私は遅くなるから。お腹すいたら、これ食べててね。じゃ、行ってきます」

「ぴっ!」

ちょっと量が多かったかな。昨日より一回り大きくなってる気もするし。

「ま、いっか」

なるべく仕事を早く終わらせて帰ってこよう。お風呂に入れてあげようかな。

 

「あ、やっと帰ってきた、はやく!」

定時で会社を出てスーパーで買い物してから帰ってきたら、何やら騒ぎになっていた。

「どうしたんですか」

「どうしたもこうしたも。あの子、あんたんちの子?どうにかしてよ」

「え?…あ、」

アパートの三角屋根の上に。きらきらと輝く毛並みの、大きなケモノがいた。

「…ぴっひ゜?」

「ぴ、ぴっ!ぴぃーっ!!」

大きな目からポロポロ涙を流す。もしかして、寂しかったの?

私がいなくて。一人ぼっちで。寂しかったの。

「下りておいで。怒らないから」

「ぴ。ぴぴ」

「うん。大丈夫、ほら」

あーあ。このアパート、住み心地良かったのにな。引っ越さなきゃ。

「…明日から減らそうね、食べる量。分かった?」

「ぴぃ」

いい子。

大丈夫、私がちゃんと育ててあげるから。安心して。

美しく立派なケモノになったら。

全部残さず、食べてあげる。

大好きよ、ぴっぴ。

 

一緒にいようね。