全部、嘘。

妄想と日常と噓

その先の光

ふと気づくと、知らない場所にいた。廃墟みたいだ。縦長の窓から夕方の光が射し込む。

「その窓は開かないよ」

後ろから声がした。知らない男の子が立っている。

「ここはどこ?」

「知らずに来たの?ここは僕の家だったところ」

そう言って手を広げてくるっと回った。重力を感じさせない軽やかさ。

「ピアノ弾いてあげようか。どんな曲が好き?」

「ピアノ?」

「目の前にあるよ。なんにも見えてないんだね」

ふふっと笑ってピアノの前に座る。ああ、美しい子だな。人間じゃないのかも。

「別れの曲がいい」

「分かった」

細く長い指が、繊細な音を奏でる。静かで冷たい空気に包まれた。

「ねえ。宇宙はどこにあるか知ってる?」

「弾いてる途中で声かけられるの嫌いなんだけど・・・知ってるよ」

「ほんとに?どこ?」

「おいで。見せてあげる」

手を差し差し延べられる。その綺麗な肌に触れてもいいのかな。

「もっと近く、ほら。僕の右目をよく見て」

深い漆黒の闇を湛えた目。まるで水晶のような。

「・・・あ、」

「見えた?」

「うん。あなたの目の中に宇宙があるんだね」

「そうだよ」

「そこへは、私も行けるの?」

「二度と戻れなくてもいいなら」

「戻りたくない」

「じゃ、おいで」

眼球が触れるほど近づいた瞬間。私は軟体になって、しゅるるっと彼の右目に吸い込まれた。

無音。数え切れないほどの光。果てなどない世界。ここが宇宙。

「気分はどう?」

「凄くいい。ありがとう、入れてくれて。ねえ、幻想即興曲を弾いて」

「いくらでも」

力強い旋律が、身体を覆う。・・・身体?今の私は、どんな形をしてるんだろう。

「素敵だね、あなたの宇宙」

「いていいよ、永遠に」

永遠。ここにはそれがある。私はここで。

生きていく。