全部、嘘。

妄想と日常と噓

鬼め

「こんばんは」

「こんばん、は…?」

バス停から家までの帰り道。

いつもはすれ違わない人だなぁと思って何気なく頭を見たらツノが生えていた。

「鬼ですか」

「鬼だよ。あんたの中の」

驚いた。鬼はとっくに追い出したと思ってたから。

「どうして、また?」

「あんた、妬んだだろ。あいつを」

あいつ…あいつって…

「ああ、あの人のこと?だって、あれはあっちが悪いもの。仕方ないでしょ」

「何でだよ。お前のものを盗っただけだろ」

「そうね、盗っただけね…でも私の一番、大事なものだわ」

「ふん。たかがあれくらいで」

腕を組んで鼻で笑った。なんだ、ただの酔いどれ鬼か。なら構うことない。

バッグから塩を取り出して、手の平にぶちまける。

「お、おい待て、俺は」

「うるさい。雑魚は邪魔」

一気に塩を呷る。しょっぱい、けど我慢。

「頼む、俺どこも行くとこないんだ、少しでいいからお前の中にいさせてくれ」

「やだ。さっさと消えろよ、鬼め」

塩を水で流し込む。同時に身体が少し軽くなった。

ふぅ…良かった。家の中に持ち込みたくないもんね。

「ただいまー。お母さーん、晩御飯って、…あ」

リビングに、大量の鬼の屍。

「お帰り。ご飯ちょっと待って、これ片づけないと」

「お母さん…太ったね」

「え、そう?大福食べすぎたかしら」

バッグから塩を取り出す。ああ、塩分摂りすぎだ。でも仕方ない。

「…何してるの」

「母はね、大福なんて嫌いなの。知らなかった?」

一気に呷る。ああもう、しょっぱい。

ごくん。これでよし、のはずなんだけど。

おかしいな。みんな消えちゃった。

「お母さん。どこー」

「ここよ」

振り向くと、鬼が立っていた。

「…鬼め」

「鬼だよ」

 

もう塩は嫌だ。