全部、嘘。

妄想と日常と噓

雨に唄えば

買い物に行こうと外へ出たら、地面から空に向かって雨が昇っていた。

あれ。今月って逆転月だっけ。どうしよう、傘しかないし。行くの止めようか。

「ねー。買い物行くのー?」

「え?」

上から声がした。見上げると、大きな絨毯が浮かんでいた。ゆっくりススーッと下りてくる。

「私も行くからさ。乗ってけば」

「ありがと、助かった」

誰だっけ、この人。見たことある気もするけど・・・ま、いいや。

えいっと飛び乗る。ふかふかで気持ちいい。

「乗り物、持ってないの?」

「うん。買わなきゃって思ってるんだけど。これ、ぜんぜん雨が染みてこないね」

「裏に最新の防水加工してあるの。防水すれば、大きいタオルでも雨除け出来るよ」

「そうなんだ。でも私まだ操れる技術ないしなぁ」

「簡単よ、愛してあげればいいだけ。それでなんでも言うこと聞くわ。さ、着いたわよ降りて」

「ありがとう。あなたは?」

「私はこの先の銀行で用事があるから。タオルと防水缶を買うの忘れないでね」

「うん。それじゃ」

去っていく絨毯を見送ってからスーパーへ。帰りは即席の乗り物で頑張って帰ろう。どんなタオルがいいかな・・・と楽しく選んでいた時。

大きな爆発音がした。みんなで急いで外へ出る。銀行のほうから火の手が上がっているのが見えた。

「何があったの」

「大きな絨毯が突っ込んだらしい」

絨毯。

ああ。ああそうか、そうだった。どこかで見たと思った彼女。

昨夜の夢に出てきた。

テレビのニュースで「絨毯に乗って猛スピードで突っ込んだ模様。銀行に恨みがあったとのことです」というナレーションと共に画面に映し出されていた顔だった。

「・・・正夢だったんだ」

「おや、そうなのかい。そりゃ不運だったねえ可哀相に」

「でも、いい人だったから。責められない」

店内に戻って、買い物をした。

タオルと防水缶はカゴには入れなかった。

濡れるのは嫌だったけど、濡れて帰ろう。

 

乗り物は、しばらく必要ない。