全部、嘘。

妄想と日常と噓

いちぬけた

「ぷぎゃっ⁉」

「あ、ごめん」

恐竜の赤ちゃんを踏んでしまった。慌てて抱き上げる。

「痛かったね、ごめん。お母さんは?迷子になったの?」

「ぷぎぃ…」

「そっか。どうしよ…交番に連れてったほうがいいかな」

恐竜の迷子届けって受け付けてくれるんだっけ。

「とりあえず行ってみよっか」

赤ちゃんを撫でながら、交番への道を歩いていると。

どすん…ドスン。ドスン、ドスンッ。

「坊や、私の坊や。どこにいるの?」

頭上から悲痛な叫びが聴こえてきた。もしかして。

「あのー。すいませーん、この子って」

「え?…あっ…!坊や!」

5m.ほどの母親が、ぐぐっと屈んで赤ちゃんを抱き上げる。

「良かった、もう見つからないかと思ったわ。あの、ありがとうございます」

「いえいえ。逢えて良かったです」

「よろしければ、お名前を」

「いやもうそんな、たまたまですから。お気になさらず」

「そんな…こちらの気が収まりませんわ」

鋭い爪の大きな手で、強く掴まれた。

ああ…やっぱり。知らんふりして逃げれば良かった。

「まぁ、いい肉付きだこと。坊や、これで栄養たっぷり摂れますよ」

 

恐竜は踏んじゃ駄目。